鍛冶が媼
かじがばば


『絵本百物語』五 「鍛冶が媼」
桃山人・文、竹原春泉・画
【江戸時代】

 高知県に伝わる、老婆に化けた狼の妖怪。
 むかし、臨月の女が装束峠を歩いていると、日暮れごろに陣痛がはじまり、そのうえ狼の群れに襲われてしまいました。ちょうどそこを通りかかった飛脚が助けに来て、二人で杉の大木の上に避難。狼は木の周りを取り囲み、二人に飛び掛ろうとしますが、高くて届きません。だけど狼たちは諦めず、梯子状になって二人に迫りました。飛脚が脇差しで応戦していると、狼の群れの中から「佐喜浜の鍛冶が嬶を呼んでこにゃあ」という声があがり、やがて鍛冶が嬶が出現。飛脚は、襲ってくる鍛冶が嬶に脇差しで攻撃。すると、鍋が割れる音と、人の悲鳴のような声が聞こえました。そして、その瞬間に狼たちの姿は消えてしまいました。翌朝、飛脚が点々と残る血の痕をたどって行くと、佐喜浜の鍛冶屋につきました。鍛冶屋の主人によると、嬶が頭に怪我をして寝ているとのことだったので、飛脚は中にいた嬶を斬り伏せました。嬶の正体は年をとった狼で、床下からは、本物の嬶の骨や、狼に食われた者たちの骨が出てきたそうです。

 『絵本百物語』(1841)にも鍛冶が媼が描かれ、「土佐国野根と云処に鍛冶屋ありしが女房を狼の食殺しのり移りて飛石といふ所にて人をとりくらひしといふ」 と記されています。
 野根にいた助四郎国延は、乱れ焼刃の上手でした。その三代目の養子である重国の妻が、室戸(高知県)へ向かう途中で道に迷い、狼に食い殺されて以来、妻の幽霊が旅人を襲って食うようになりました。郷士の逸作という人が白毛の狼を退治すると、それから媼は現われなくなったそうです。

 

日本各地に伝わる鍛冶が媼の類
名前 地域
鍛冶が媼(カジガババ) 高知県
小池婆(コイケババ) 島根県
紺屋の婆(コンヤノババア) 兵庫県
大天婆(ダイテンババア) 宮城県
新屋の婆(ニイヤノババア) 広島県
孫太郎婆(マゴタロウババア) 静岡県
弥三郎婆(ヤサブロウババア) 静岡県、新潟県、福島県、山形県

 


参考文献
本竹原春泉 絵本百物語―桃山人夜話―』 多田克己 編、京極夏彦 ほか文 (国書刊行会)
本妖怪事典』 村上健司 (毎日新聞社)
本日本妖怪大事典』 水木しげる 画、村上健司 編著 (角川書店)


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