縊鬼
いつき

 『反古のうらがき』に記されている、人を自殺させようとする妖怪。
 江戸の、ある組頭のお屋敷で、宴が開かれていました。酒をよく飲んで落語を聞かせてくれる同心が来るはずだったのですが、その男性はなかなか現われませんでした。しばらく経って、ようやく男性がやって来ましたが、男性は「急用ができた。人を喰い違い門に待たせている」と言って、すぐに帰ろうとします。他の者が男性に理由を訊くと、彼は「首を吊る約束をしてきた」などと言いました。男性は帰りたがりましたが、そのまま行かせるわけにもいかないので、みんなは彼に酒を飲ませ、いつものように落語を所望しました。やがて男性が落ち着きを取り戻すと、そこへ「喰い違い門で首吊りがあった」という知らせが入ってきました。改めて組頭が男性に事情を訊ねました。男性は「詳しく覚えてないが…」と話し始めました。
 男性の話によれば、その日の夕方、彼が喰い違い門に行くと、そこにいた者に「首を吊れ」と命じられたのだそうです。男性はなぜかそれを断れず、「わかった。しかし、これからお頭の屋敷に行く約束だから、一言断ってからにさせてくれ」と頼みました。その者は屋敷の門までついて来て「さっさと断って来い」と言います。男性はなぜか、その者の命令に従っていました。
 「今もまだ首を吊りたいか?」と男性に訊ねると、彼は首を吊る真似をして言いました。「あなおそろしや」。

 


参考文献
本妖怪事典』 村上健司 (毎日新聞社)
本日本妖怪大事典』 水木しげる 画、村上健司 編著 (角川書店)


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